「働く」こと
皆さんは「働く」ことをどのようにとらえていますか?
もしかしたら聞いたことがある方もいるかと思いますが、レンガ職人の話です。
ある旅人が3人のレンガ職人に「何をしているのか」と尋ねると3人が3人、違うことを答えた。
「そんなこと見ればわかるだろう。親方の命令で【レンガ】を積んでいるんだよ。」
「レンガを積んで【壁】を作っているんだ。この仕事は大変だけど金が良いからやっているのさ。」
「レンガを積んで、後世に残る【大聖堂】を造っているんだ。こんな仕事に就けてとても光栄だ。」
…と。
同じ「レンガを積む」ということをしていてもその捉え方はさまざまですよね。
ところで、職場の隣に座っているあの人の「労働観」について知っていますか?
配偶者がいらっしゃる方は配偶者の「労働観」について聞いたことはありますか?
この相手の「労働観」に共感を示すことはとても大事なことであるとさわは考えます。
事例研究
ある時わたしが相談を受けた内容を例示します。プライバシーもあるので相談そのままではなく、エッセンスをつまんでまとめてみたいと思います。
【事例Ⅰ】
とあるAさん。
妊娠初期のつわり症状がひどいため職場に妊娠6週目に休暇を申出。
上長は迅速に対応し、Aさんは休暇を取ることができた。
症状が落ち着き、14週頃に職場復帰を申し出したところ、「安定期に入る16週まで休みなよ。旦那さん管理職なんだし旦那さんのお給料あれば生活できるでしょ。」と言われて困惑してしまった。
わたしがAさんから相談を受けた時にAさんの話をよく聴いて、思いに耳を傾けてみました。
すると、どうやらAさんはもともと仕事が好きな人で、お給料という対価をもらうことよりも自身の達成感や成長につながる経験を大事にしている方でした。
こういったAさんの「困惑」の背景にある思いを聞いていると、Aさんの上長との「労働観のズレ」があるのではないかと考えました。
おそらくAさんの上長は「お給料をもらうために仕事はしなければならないもの」という労働観をお持ちなのかな。たまたまわたしもAさんの上長とお仕事をしたことがあったのですが「家族のためにどんなつらいことでもお給料をもらうために仕事はやらなければならない」という感覚をお持ちでした。
そのような考え方であったら「自分が働かなくても配偶者が管理職でお給料多ければ、ムリして自分が働かなくても大丈夫でしょ」という感覚を持っていても不思議ではないでしょう。
しかしながら、Aさんとしては休暇中の金銭面の不安より自身の成長機会が減っていくことの方が不安だったのでしょう。
そういった時に上長から家庭のお財布を心配される言動があったことで困惑されたのだと思います。
【事例Ⅱ】
奥さまが育児休業中の男性社員Bさん。
保育園の入園申し込みの時期になり、奥さまとお話しする場を作ったとのこと。
お話をしているうちに奥さまの表情がどんどん暗くなってしまい、困ってしまった。
後日、奥さまから「なんだかそもそも職場復帰が前提の話になっていて、育休延長とか退職とかそういう話がなく、私の気持ちが置いていかれたように感じた」と言われてはっとした。
【事例Ⅱ】はわたしがお話を聞きだすというよりBさんが自分から語ってくれた内容なのですが、Bさんは育児休業取得後奥さまも職場復帰し、2人でお仕事を続けるものだ、という労働観をお持ちのようです。一方、奥さまは一度立ち止まって職場復帰以外の道も探したいという気持ちがあったようです。
育児休業取得前はご夫婦で働き続けることは当然という話し合いをされていたようですが、奥さまの方はお子さんと1年間過ごす中で自分にとっての「働く」ことと向き合っていたのでしょう。一度一致していたからといってそれがずっと同じ状態をキープし続けることはないのですね。
相手の労働観に共感する姿勢
レンガ職人の話、Aさんの話、Bさんの話、共通して言えるのは「働く」ということの周辺にある思いや「働く」ことそのものに対してどのようにとらえているのか、何を求めているのか、は人それぞれであり状況によって変化していくものということを感じていただけたかなと思います。
わたしはハラスメントとは「相手の価値観を否定する、もしくは自分の価値観を相手に押し付ける行為」ととらえているのですが、Aさんの事例だと「自分が働けなくても配偶者が管理職でお給料多ければ、自分が無理に働かなくても大丈夫でしょ」という感覚を「お給料という対価をもらうことよりも自身の達成感や成長につながる経験を大事にしている」Aさんに押し付けてしまったという点、それが「上司と部下」というパワーバランスのある状況で発生してしまったという点でAさんの話はヘタするとハラスメント問題につながりかねない内容です。
Bさんの事例は奥さまの不満が高まってしまい、ご夫婦の関係に亀裂が生じることになってしまったかもしれません。
話さないと「わからない」ことではありますが、日頃からコミュニケーションを取って、相手に好意的な関心を持つことで「共感する」ことはできると思うんです。
相手の価値観に共感する(=尊重する)姿勢は大事ですよね。
それと同時に自分の価値観、つまり今回の場合だと「自分自身がどのような労働観を持っているのか」も大事です。自分のことが分かっているからこそ、相手との違いに気づき、尊重することができます。
ぜひこの機会にご自身の労働観について考えてみませんか?
そしてあなたの隣にいる同僚や配偶者など、あなたをとりまく相手への関心を高め、理解を深めるきっかけにしてもらえればと思います。